マイクロスコープを使った歯性上顎炎の治療

歯性上顎洞炎とは

歯性上顎洞炎という言葉はあまり聞きなれない言葉だと思います。では「上顎洞」という言葉はご存知でしょうか?蓄膿症はみなさんもご存知だと思います。蓄膿症は一般的に多くは上顎洞の中に「鼻の内部」が原因で頬(ほお)の内部にある骨の空洞(上顎洞)に炎症が起き膿がたまってしまう病気です。歯性上顎洞炎は歯が原因で上顎洞に炎症が起きてしまう病気です。恐ろしい病気だと思いませんか?歯が原因で、鼻の内部がやられてしまうんです。今までは、抜歯で対応が多かったのではないでしょうか?しかし、現在はマイクロスコープの使用で、症状をなくしつつ歯を残すことが可能になりました。

歯性上顎洞炎の症状

慢性状態での症状は経験上、「わかりずらい」と思います。顔の違和感、鼻の違和感、咬むと違和感などです。しかし急性症状の症状は非常に顕著です。頭まで痛い、顔が激痛、頬が激痛、歯が激痛、咬めない、寝れないなどです。非常に患者さんはつらい思いをもって当院に来院します。患者さんによっては顔が変形してしまうぐらい腫れて痛む方もいらっしゃいます。

歯性上顎洞炎の主な原因

歯性上顎洞炎の主な原因は実際は何なのでしょうか?多くは根尖性歯周炎が悪化して歯性上顎洞炎が起こります。(根尖性歯周炎とは?→根管治療とは?をクリック)上顎の歯の根の先に上顎洞が存在するという解剖学的な位置関係があります。歯の根の先と、上顎洞の底の距離が近い人もいれば、距離が長い人もいます。距離が近い人は歯性上顎洞炎のリスクは高いと言えます。虫歯などが原因で歯の根の先に病変(膿のようなもの)ができ、その病変が上顎洞の底に接触、浸食すると病変は上顎洞内に侵入し炎症を起こします。結果、歯性上顎洞炎を引き起こします。

歯性上顎洞炎の治療法とは

一時的な症状の改善であれば、抗生剤の服用で歯の周囲、上顎洞の急性炎症を一時的に抑えます。治すではありません。患者さんに時々質問を受けるのですが、「薬で治らないんですか?」という問いに対して、私は「治りません」と答えます。あくまで、抗生剤は対症療法です。

しっかり治療するのであれば、根本的治療(根治療法)が必要です。

歯性上顎洞炎の根本的治療は2つ存在します。歯の保存療法と抜歯療法です。保存療法は原因歯の根管治療(根の治療)です。根尖性歯周炎が原因の上顎洞炎であれば、根尖性歯周炎の治療(根管治療・根の治療)が上手くいけば上顎洞炎は治癒します。2つ目は抜歯です。原因の歯を抜歯すれば根尖性歯周炎、歯性上顎洞炎は完治する場合がほとんどです。

保存療法の現場での実際のお話

~急性の根尖性歯周炎の対応のお話~

前項で、治療法は2種類あり、保存療法と抜歯療法です。普通に考えればどなたでも抜歯でなくが保存療法を選択すると思います。自分も抜歯は選択したくありません。なぜ、抜歯という選択があるのか?そこを詳しくお話しようと思います。実は非常に歯科医師として悩ましい現場での悩みがあるのです。

歯性上顎洞炎の保存治療は結局は原因歯の根管治療です。根管治療が成功すれば根尖病変は収束し、自然に上顎洞炎は治癒します。しかし、根管治療の難易度はその歯の状況によって違います。治療回数がかからない歯、回数が多くかかる歯。治療すれば高い確率で治ると予想できる歯、治療を行っても治りづらいと予想のつく歯さまざまあります。費用のお話をすると、すこしでも成功率を上げるのあればマイクロスコープを使用しますが、費用は少々かかってしまいます。

例えば、患者さんが「歯が痛い顔が痛い」ということで来院し、医院に来た当日は大きな痛みは多少落ちついてたとしましょう。そして、何回かのマイクロスコープを使った根管治療で治癒するような低い難易度の症例であれば、間違いなく私は根管治療(保存治療)を勧めます。

しかし、患者さんが医院に来た当日も強い痛みがあり「再来週に出張があり、早く痛みをなんとかしてください」と要望があったとします。診査をしたところ、治療の難易度の高い歯であることがわかり、痛みを抑える治療回数は3回ほどかかり、しかし、成功率も私の判断で40%程度だったとしましょう。マイクロスコープを使った根管治療は費用もかかります。またその時の医院の予約状況と患者さんの予定が合わず、3回治療を受けるのが1か月程度かかるとしましょう。

あなたならどうしますか?抜歯を選択しますか?それでも保存治療を選択しますか?違う医院さんに行きますか?

歯性上顎洞炎まで行ってしまった根尖性歯周炎にかかった歯の治療歯私は以前はほとんどの症例を抜歯を選択していました。それは以前での肉眼での根管治療ではほとんどが治らないことがわかっていたからです。そこで私はほぼすべての症例でマイクロスコープを使用して治療を行います。しかし、マイクロスコープを使った治療は時間がかかり、準備も必要です。予約をしっかりとっていただけなければ行うことはできません。急に患者さんが来院し痛いからマイクロスコープを使って治療をしてくれと要望があっても、お断りさせていただいています。(当院は基本は予約制)。そして、現在マイクロスコープを使った治療は多くの患者さんに行っております。ですので、現時点で本当に難しい問題なのですが、一人の患者さんにひいきすることはできないのです。一人の患者さんを治すために特別に3~4時間という多くの治療時間をとることは致しません。つまり、痛みに対して治療が追い付かないことがまれにあるのです。その時は場合によっては抜歯療法の方が患者さんにとっては良いのかもしれません。(理想は、痛くなる前に歯医者さんに来るのがベストですね!)

私は急性の根尖性歯周炎の患者さんには上記のことを必ずお話しています。そして患者さんと入念に話し合い抜歯療法か保存療法かを決めています。

根管治療を行うには、患者さん一人一人の根管治療へのご理解とご協力が必要です。

 

当院の歯性上顎洞炎の症例①

歯性上顎洞炎

(↑2017年日本歯科顕微鏡学会発表症例)上段3つの写真が初診時のCT画像です、上顎右側6の根尖病変が原因で歯性上顎洞炎を起こしています。この歯は根の数が三つあり、そのうち2つの根の先にガッタパーチャの根尖からの漏れがを認めます。

しかし、CT画像診査の結果、口蓋根のみ根尖病変認めたので、治療は1根のみ(口蓋根)のみ行うことにしました。炎症を起こしている部分は灰色の部分です。

マイクロスコープを使った根管治療後、根尖病変は消失上顎洞底の骨も再生し、上顎洞内の炎症も消失しました。灰色の部分はなくなりました。つまり現時点では歯性上顎洞炎は治癒したと思われます。

当院の歯性上顎洞炎の症例②

約半年間根管治療を行っていたそうです。痛みは改善せず、当院にいらしたときは顔、頬の痛みを訴えていました。

X線写真・CT診断後、上顎右側6の根尖性歯周炎と判断。根尖病変は上顎洞底を侵食し(歯性上顎洞炎)、上顎洞まで炎症は波及していました。治療は上顎洞炎を治すために上顎右側6の根管治療(根の治療)を行うと説明しました。通常通り、ラバーダム防湿を行いマイクロスコープ、ニッケルチタンファイルを使用して根管治療を行いました。

根管内のお掃除(根管形成)は二回の治療で終わりました。MB2という根管も見つかりしっかりとお掃除を行いました。その後、根管内にお薬を入れ(根管貼薬)、二か月経過見ました。二か月経過後CT画像で上顎洞内の炎症を確認。炎症は消失しました。この後は根管充填を行い、被せ物を作る準備です。

 

歯性上顎洞炎の症例

↑治療前と治療後の比較です。上の段が初診です。上顎洞ないに灰色の部分を認めます。粘膜が肥厚し、炎症を認めます。これが歯性上顎洞炎の状態です。上顎洞の底の骨は根尖病変によって溶けてしまっています。

下の段が治療後の写真です。カルビタールという薬剤を根管内に入れ約二か月効かせました。上顎洞内の炎症は消失しCT画像では、灰色がなくなり黒色になりました。歯性上顎洞炎が治った証拠です。

↑歯性上顎洞炎を起こした上顎右側6の根管治療動画です。MB2という根管が存在していました。肉眼の治療では発見は困難な根管です。このMB2もマイクロスコープを使用して見逃さず治療を行っています。歯性上顎洞炎をきっちり治すとなるとどうしてもマイクロスコープを使用が必須になります。マイクロスコープを使用すれば、この歯が治るのか?治らないのかが、はっきりわかる場合が多いのです。こういった視覚的情報があれば患者さんに明瞭な説明ができます。明瞭な説明は患者さんにとって、とても安心材料となります。

 

当院の歯性上顎洞炎の症例③

歯性上顎洞炎の症例

↑ くわしくは当院の根管治療症例集 ← 文字をクリック

上顎左側6が原因の歯性上顎洞炎です。根管治療を行っていましたが、なかなか改善せず当院にいらっしゃいました。当院ではマイクロスコープを使った根管治療を行いました。根管内のお掃除は二回行い、仮歯を付けて歯の内部にお薬を4か月かけて貼薬、歯性上顎洞炎で失った骨を再生させました。その後、根管充填を行い被せ物を行い。歯を抜くことなく、症状の改善に成功しました。治療前の写真は上顎洞すべてに炎症(灰色)が認められます。治療後は炎症は消失(黒色に変化)しました。

当院の歯性上顎洞炎の症例④

30代女性の症例です。顔面と歯の強い痛みを訴え他院さんからの紹介で当院にいらっしゃいました。上顎左側6の神経が死んで腐っており、根尖性歯周炎を引き起こしていました。根尖病変は上顎洞底を侵食し、上顎洞内まで炎症は波及していました。通法通り、マイクロスコープを使用して根管治療(根の治療)を行いました。治療直後に痛みは引いてきたとのことでした。歯の内部にはカルビタールを入れ、約2か月ほど経過をみました。二か月後CT画像診査を行ったところ、歯性上顎洞炎は明らかに改善傾向がありましたので、その後根管充填を行いました。治療後(2017年10月の時点)約2年が経過しましたが、現在も経過は良好です。

歯性上顎洞炎の症例④

 

 

 

埼玉県行田市坂詰歯科医院(熊谷,羽生,鴻巣,東松山市、桶川,北本,加須,深谷,蓮田,久喜,伊奈町,東松山市,館林,太田,佐野,蕨,川口,さいたま市からも来院)が歯を抜かない根管治療(根の治療)、マイクロスコープを使った保険診療の根管治療(神経の治療)、ラバーダム防湿、長く続く痛み、外科的歯内療法(歯根端切除術)、歯性上顎洞炎、MTA治療を解説。担当Drは川口市(蕨市より)出身です。

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